福岡高等裁判所 平成4年(ネ)229号 判決 1993年8月04日
主文
1 原判決を取消す。
2 控訴人が被控訴人に対し、原判決別紙一交通事故目録記載の交通事故につき、原判決別紙二自動車共済契約内容記載の自動車共済契約に基づく権利を有することを確認する。
3 訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨
主文と同旨。
二 控訴の趣旨に対する答弁
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
第二 事案の概要
次のとおり付加し、改めるほか、原判決の「事実及び理由」の「第二 事案の概要」のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決二枚目裏七行目の「原告は」から一〇行目の「ない。」までを「控訴人は、平成二年八月中旬頃訴外米澤英明との間で、本件被共済自動車につき、同訴外人を買主として売買契約を締結し、同月の盆過ぎ頃同訴外人に本件被共済自動車を引渡した。右は本件約定にいう被共済自動車の譲渡にあたるから、同年九月一八日に発生した本件事故については、被控訴人には共済金支払義務がない。」と改める。
二 同一二行目の「真一」を「英明」と改める。
第三 争点に対する判断
一 本件事故当時、英明が本件被共済自動車を使用し、運転していたことは、当事者間に争いがない。
そして、乙第二、第六号証によれば、さとみは、平成二年九月一八日被控訴人に対し、本件被共済自動車は平成二年八月三〇日に真一に売却したことに相違ない旨記載した「久留米五六た二一三号車の譲渡について」と題する書面を作成し、控訴人とともに署名、押印したうえ交付したことが認められ、また、乙第三、第九号証及び原審証人米澤真一の証言によれば、真一は、平成二年九月二〇日被控訴人に対し、本件被共済自動車は平成二年八月三〇日に控訴人から譲受けたことに相違ない旨を記載した「久留米五六た二一三号車の譲受について」と題する書面に署名、押印して交付したことが認められる。
二 しかし、右乙第六号証、原審証人大石貞義及び当審証人中原さとみの各証言を総合すると、さとみは、本件事故直後に同人方を訪問した被控訴人の職員の求めに応じ、右職員が下書きした書面を、譲渡や売却の意味について十分理解しないまま、清書して、前記書面を作成し、交付したものであることが認められ、また、乙第九号証及び原審証人米澤真一の証言を総合すると、真一は、平成二年九月二〇日滋賀県甲賀郡内に居住していた同人のもとを訪れた被控訴人の提携機関の職員から、鉛筆であらかじめ下書きされた書面を示され、右書面のとおりに書くよう求められたこと、右職員は真一に対し、右書面は控訴人の被共済自動車の入替手続のために必要なものであるとの説明をしたが、真一は、本件事故の被害者に対する保険金支払のために必要な書類であろうと考えてこれに応じ、前記書面を作成し、交付したものであることが認められる。
さらに、甲第二、三号証、乙第一五号証の五、八、一〇、原審における証人中原敬、同米澤真一、原審及び当審における証人米澤英明、当審における証人中原さとみの各証言を総合すると、次の事実が認められる。
1 本件被共済自動車は、昭和六三年三月二八日に控訴人の所有名義に登録されたものであるが、本件事故当時も控訴人所有名義に登録されたままであった。
2 控訴人は、平成二年三月一二日に被控訴人との間で、本件被共済自動車につき、共済期間を同年同月二九日から平成三年三月二九日まで、運転者年齢条件を年齢を問わず担保、賠償共済者(主に使用する者)をさとみ、共済掛金は月額七一八〇円を毎月二〇日に支払うことと定めて本件共済契約を締結したが、本件事故当時も右契約内容のまま、共済掛金の支払がされていた。そして本件事故後に、被共済自動車を本件被共済自動車から控訴人所有の別の自動車に入替える手続が行われた。
3 さとみは、平成二年八月下旬に、英明、訴外中原敬ら四名とともに鹿児島県甑島に二泊三日の旅行をした。右四名は、帰途控訴人方に立ち寄った後帰宅するに際し、本件被共済自動車を借用し、最初は右訴外中原が運転し、最後は英明が運転して帰宅し、英明は本件被共済自動車を自宅付近の路上に置いたままとし、時折運転し、使用していた。
4 同年八月頃にさとみから本件被共済自動車を他に売却したいとの意向を聞いていた訴外中原は、同年九月四日頃、当時運転免許取得のために自動車学校に通っていた英明に対し、本件被共済自動車の買受方をすすめたところ、英明は代金一五万円で買受けることを承諾した。その際、英明は訴外中原に対し、約一か月後に、代金の調達ができた時点で本件被共済自動車を買受けると述べ、訴外中原は、さとみがすでに別の自動車を同年七月頃に買受け、所有権移転登録手続未了のまま使用していたところから、保管場所がないので、本件被共済自動車は英明において預かっておいてくれるように述べた。
5 その数日後に英明から、内金七万五〇〇〇円の調達ができたので預けるとの申出があり、訴外中原が右金員を受取り、さとみに交付した。その頃さとみは控訴人に対し、本件被共済自動車が売れるかもしれないという話をした。
6 さとみ及び控訴人は、本件被共済自動車の所有権移転登録等は、同年一〇月頃に残代金の支払を受けるのと引換えに行う予定であった。
7 英明は、平成二年九月一八日午前〇時三五分頃、本件事故を発生させた後、本件被共済自動車を事故現場に放置したままいったん逃走し、同日午前二時三五分頃大牟田警察署に出頭したが、その際及び同年一〇月九日の警察官の取調べに対し、事故当時運転していた自動車は、滋賀県に住んでいる兄真一が友達から買う約束で譲り受けていたものであると供述した。
英明は、本件事故の翌日の平成二年九月一九日に真一に電話をし、本件事故に関連して兄真一の名前を出したと述べた。
その後平成三年一二月九日に英明は検察官の取調べに対し、本件事故当時運転していた自動車は、自分が無免許であったため、兄が友人から買う約束で譲り受けていた車であると述べていたが、ほんとうは自分が松﨑さとみから代金一五万円で買う約束をして、半分の七万五〇〇〇円を松﨑に支払って車を引渡してもらっていたものであると供述するに至った。
なお、英明と訴外中原が本件被共済自動車の売買に関する交渉をした際、英明は運転免許を有しないので、登録名義人を兄の真一とするとの話が出たことがあるが、本件被共済自動車を実質的に真一が買受けるとの話し合いがされたことはない。
真一は、平成二年八月九日頃から同年九月一二日頃まで大牟田市に帰省していたが、同年九月初め頃にはじめて本件被共済自動車を見かけ、同月六日には本件被共済自動車を運転して病院通いをした。
三 右二において認定した事実に照らすと、平成二年九月四日頃に訴外中原と英明との間に成立した合意は、約一か月後に英明において残代金七万五〇〇〇円の調達ができた時点で、右残代金の支払と引換えに本件被共済自動車の所有権を英明に移転するとの合意であり、本件事故当時本件被共済自動車を英明が使用していたのは、本件被共済自動車を英明に保管させ、英明はこれを保管するかたわらこれを使用していたことによるもので、本件被共済自動車は、残代金の支払と引換えに所有権移転登録手続等を了するまでは、控訴人の所有とし、いつでも控訴人ないしさとみにおいてその返還を受けて使用することができるという状況にあったものとみるべき余地が存し、本件事故当時英明が本件被共済自動車を使用していたこと並びに控訴人、さとみ及び真一が作成して被控訴人に交付した前記書面に前記のとおりの記載があることをもって直ちに、本件被共済自動車につき、本件事故前に、控訴人から英明に対し、本件約定にいう譲渡がされたとの被控訴人の主張を肯認し難く、他に右主張を肯認するに足る証拠はない。
四 そうすると、控訴人が被控訴人に対し、本件事故につき、本件共済契約に基づく権利を有することの確認を求める控訴人の請求は、正当として認容すべきである。
第四 よって、控訴人の請求を棄却した原判決は失当であって、本件控訴は理由があるから、原判決を取消し、控訴人の請求を認容し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 権藤義臣 石井義明 寺尾洋)